推薦状は出願書類の中で極めて重要な要素です。しかし、実際に出願プロセスを経験しないとわからなかったことがいくつかありました。本記事では、推薦状をどなたにお願いすべきかということ、そしてどのようにお願いすべきかということ、といった「推薦状をお願いする上で意外と知らない基本事項」について押さえておくべきポイントを記載します。

どなたに推薦者をお願いすべきなのか

大学院出願プロセスでは通常、2〜3通の推薦状が必要になります。研究者養成を目的とする大学院では、それらの推薦状は教授に書いていただくパターンが多いかと思います。一方で、実務家要請を目的とする大学院(MBAや、私の出願した国際関係/公共政策系大学院など)では、推薦状のうち1通は教授で、もう1通は職場の上司or先輩に書いていただくパターンが多いと思います。いずれにしても、「教授」「職場の上司や先輩」などといった、学校が求める「推薦者の属性」をまず押さえなければなりません。

その上で、どなたに依頼すべきかという点において最優先すべきは、「出願者である自分自身のことをよく知っている人(=出願者の実績や人柄を、臨場感を持って伝えられる人)」です。たまに、ポジションのできるだけ高い人に推薦してもらうべきか、といった質問を受けることがありますが、自分よりもポジションが上であればOKです。推薦状は、出願者の人となりや実績を知るための資料である以上、推薦者がどれだけ偉いかどうかが重要だとは思えません(但し、出願者の専攻分野に精通していたり世界的な第一人者である教授とコネクションがあったり、世界的に有名な企業の経営層などとコネクションがあったり、志望先の大学自体もしくは大学内の教授等に深く関係のある人物とコネクションがあったりする場合は例外かもしれません。つまり、逆に、そういった激レアなコネのない9割9分の一般人は推薦者のポジションのことなど考えてもしょうがないし、そもそも考えなくてよいと思うということです)。

私の志望校は2校ともに、推薦状は2通が必須で、1通はオプションでした。私は、学部時代のゼミの教授と、本社時代の部署の先輩(私の指導役をしてくださっていた課長代理の方)と、大変お世話になった英語の先生の、3名に推薦していただきました。

使用言語は基本的に英語

推薦状は、当然のことながら、英語である必要があります(志望校によってはフランス語等の他言語でも良いかもしれませんが、いずれにしても日本人の推薦者に依頼をする場合、日本語ではなく外国語で推薦状を書いていただかなければなりません)。そして、これも当然のことながら、一定以上のライティング力が要求されます。

尚、標準的な分量は1枚半から2枚程度、多くても3枚、かと思いますが、学校別に指示があったりするので従いましょう。

推薦状以外の要入力事項もあり

推薦状以外に、多くの学校では推薦フォームも埋めていただく必要があるはずです。これはコンピテンシーに関する成績表のようなもので、学校によって項目は違いますが例えば「学業成績」「働く上でのポテンシャル」「人間としての成熟度」「リーダーシップ」「数的処理能力」「環境適応性」「コミュ力」などなどの各項目についてそれぞれ、上位2%, 5%, 10%, 25%, 50%…といったチェックボックスがあり、推薦者が今まで見てきた(指導してきた)人物の中で出願者はどれくらいに当てはまるか、記入していただく必要があります。トップ校に行きたければ、推薦者の方になるべく多くの項目で上位2%や上位5%と言ってもらえるような人物になれるように日頃から頑張りましょう。

尚、このフォームには他にも記入事項がいくつかあることがあり(出願者のことを何年くらい知っているか、等)、質問文や選択肢も含めてだいたいA4用紙1~2枚くらいの記入フォームであることが多いです。推薦状だけ書いていただければ完了、ではないことに留意しましょう(推薦状本体以外にも、ここに書いた推薦フォーム、及び、オンライン提出(後述)、という2つのハードルが待ち受けています)。

推薦者にかかる多大な時間と労力

推薦状作成は、かなり時間がかかります。この記事を読まれている多くの方は日本人の推薦者の方に英語の推薦状をお願いすることになると思うので、更に時間がかかります。それに加えて、教授や上司・先輩にとって、推薦状を書くことは「完全に業務外」であること、をまず強く認識する必要があります。自分の指導教授が推薦状を書いてくれることは全くもって当然のことではありません。出願者への推薦状は、教授や上司や先輩の年度内の成果にはおそらく全く繋がりません。言ってしまえばサービス残業です。だからこそ、推薦者となることを快諾してくださった教授や上司や先輩に対して、出願者は失礼があってはならないし、損得をほとんど一切抜きにして純粋な気持ちで応援してくださる推薦者の方に対して、一生懸命頑張って節目節目でその様子を報告をすべきなのです。尚、特に大学教授など多くの推薦状を書く人の場合、推薦する以上は良い人物を推薦したい(逆に、イマイチな人物や不誠実な人物を推薦してしまうと、その推薦者が今後ほかの出願者に推薦文を書いたときにあまり信じてもらえなくなる)ということも理解しておくべきです。例えば合格して入学した後の学業成績が、素晴らしかったり、逆に芳しくなかったり、といった場合に、推薦者に連絡がいくことも実際にあるようです。

便利に思えるオンライン提出が逆に鬼門となることも

オンライン提出が標準化された、ということは、若い世代からすると「便利になった」「労力が少なくなる」と思い込みがちですが、推薦者目線だと必ずしもそうではなく、特にパソコンが普及する前の世代(年齢が50代60代以上の大学教授など)の推薦者からするとオンライン提出は「めんどくさい」上に「手間がかかる」し「味気ない」仕組みと認識されています。推薦状提出に関する歴史の変遷は下記の通りです:


  1. 全て手書きして、封をして、出願者に渡していた時代(出願者がその封をされた推薦状を郵送で志望校へ送る)。

  2. 推薦状と推薦フォームをワープロ/パソコン打ちして、最後に手書きでサインをし、封をして、出願者に渡していた時代(出願者がその封をされた推薦状を郵送で志望校へ送る)。

  3. 推薦状をパソコンで作って、専用サイトにログインして、作った推薦状ファイルをアップロードし、専用サイト内の推薦フォームもオンライン上で入力して、電子サインをして、提出ボタンを押して、完結する時代。←今ココ。

 

オンライン提出が始まったのはせいぜいここ10数年で、当時はサイトが重すぎたり煩雑すぎたりして難解だったようです。そしてオンライン提出のシステムがそれなりにまともなシステムに改善されたのはここ数年とのことです。パソコンが普及する前の世代の方々としては、下記のような苦労があるようです:

「タイピングのスピードが速くないので、手書きをした方が遥かに早い」「MS Wordでのインデント等の体裁の整え方を知らないので、手書きをした方が簡単に作れる」「専用サイトのパスワード設定とログインに慣れていない」「専用サイト内での、ファイルアップロードやフォーム入力に慣れていない」

 

このあたりがネックになって、オンライン提出になったことで推薦状にかかる時間が数倍に膨れ上がってしまってしんどい、という話を複数箇所で聞きました。私も、推薦者の方に「専用サイトにアクセスできない」と言われて色々確認したところ、「専用サイトへアクセスするために、メールのリンク先をクリックせずに、リンク先のURLをブラウザのURL欄にコピペして行こうとしていてアクセスできておらず、コピペしたURLをよくみたらhttps://の後ろからコピーしてしまっていたので最初のhttps://にすべきところがhttp://になっておりnot foundを返され続けていた」ということがありました。

推薦状作成及び提出にあたって知っておくべき正しさと適切さ

推薦状及び推薦フォームは、当然のことながら、出願者が見るものではありません。出願者が見て良いものでもありません。推薦者自身が書き上げて直接学校へ渡すものです。しかし実際には、ある程度は臨機応変に動く必要が出てくるかもしれません。具体的に想定される臨機応変な対応としては、下記の「白に近いグレー」及び「グレー」に記載したような対応になります:

白(正しいし、適切)

・事前に、出願者が今回、志望校へ出願を行う背景や目的、将来やりたいこと、などを推薦者へ伝える。

・事前に、出願者の人柄や能力に関することで、推薦者が思い出す必要がある情報をインプットしておく。例えば、卒業以来しばらく会っていなかった大学のゼミの指導教授に推薦をお願いする際、当時の自分のゼミでの役職や、学業や課外活動で力を入れていたことや、発表や卒論のテーマなど、についてインプットしておく。

白に近いグレー(正しいとは言えないが、それが適切(必要)なのであれば仕方がない)

・推薦者が書いてくれた推薦状のドラフトを、こっそり見せていただき、「内容」(もう少しこういう点にも触れてほしいのですが、等)と「英語」(文法やスペル等のチェック)に関して相談やコメントをさせていただく。

・オンライン提出に際して推薦者がパソコンが得意ではなく、専用サイトにスムーズにアクセスしたりファイルをアップロードしたりすることが困難な場合の、パソコン操作の補助。

グレー(正しくはないが、それが適切(必要)なのであれば仕方がない)

・推薦者の日本語で書いてくれた推薦状のドラフトやアウトラインを、こっそり見せていただき、それを英文にして推薦者に見ていただく。

・出願者が自身のアピールポイントや志望理由等を英文で書いてこっそり推薦者に見せ、それを参考に推薦者の方が推薦状をつくる。

極めて重要な注意事項

・仮に「白に近いグレー」や「グレー」なことをしたとしても、出願先の学校や他人に対してはその旨を絶対に言わないようにしましょう。そもそも聞かれることもないですし、各学校のアドミッションとしてもそのくらいの想定はしていると思われるので、心配する必要も特にありません。出願者自身と推薦者との間だけの話にしておけば良いものです。

・但し、上記の「白に近いグレー」や「グレー」のような臨機応変な対応がありうるのはあくまで、英語や時間などの何らかの理由で、推薦者の方から出願者に対して「臨機応変な対応ができないかどうか」打診があった場合の話です。出願者の方から「(お手数おかけしてしまうので、せめて)ドラフトはこちらで書きます」などと初めから言うのは、とんでもなく失礼なことなので、絶対にやめましょう。そのようなことを言ってしまう出願者の心境としては「大変忙しいのにお願いしてしまって申し訳ないから、せめて迷惑を最小限にしたい」という気持ちなのだと思います。しかしそれは推薦者からすると「自分の名前だけ借りたいということなのか(サインだけしろと言うことか)」「自分の推薦文や英語力を低くみているのか」ということに十分なりえます。絶対にやめましょう。あくまで、推薦者とやりとりをしていく中で、まずは失礼のないよう、かつ自分の目的(推薦をしていただく)を達成できるよう、臨機応変に対応しましょう。

依頼から提出までのタイミング

以上見てきた通り、出願に際して推薦をしていただくということは、相当大変なことです。そして当然のことながら、推薦者となってくださる方も日々大変お忙しいはずなので、十分時間の余裕を持ってお願いする必要があります。

お願いする相手の方にもよりますが、標準的な目安としては、提出のだいたい1ヶ月半〜2ヶ月前までにはお願いを完了しておくべきでしょう(但し、大学教授等、長期に不在にしているケースもあるので要注意です。連絡を取ることに時間がかかる可能性も想定した上で、初めの連絡は、提出日のできれば2ヶ月以上前にすることをおすすめします)。それより前に出願することが決まっていればもっと前にお願いをすれば良いですし、それより後にならないと出願するかがわからない場合はその旨(もし出願することにした場合にお願いさせていただきたい、その場合はいついつまでに提出が必要になる、等)だけでも連絡を入れておくと良いと思います。締切直前に出願を決めた場合などは、もう仕方がないので、すごく低姿勢で全力でお願いするしかありません。とにかく相手がいる話なので、できる限り段取りよく進めましょう。

また、全ての出願書類は締切までに確実に提出すべきですが、推薦状に関しては、推薦者の都合で期日までに提出できない場合には数日間猶予が与えられることもあります。直前(例えば1週間前)になってデッドラインに推薦状が間に合わなさそうな場合、アドミッションに個別に相談してみるのも一手です。当然ですが、初めからこのバッファありきで段取りを組まないようにしましょう。このバッファはそもそも与えられるかどうかわからない不確実なものですし、このパラグラフで私が言いたいことは、「できる限りの動きはしたけれど段取りがうまくいかなくてピンチになった」としても諦めないで、ということです。

 

今日はここまで。

Ciao 🙂